近年の東京都内におけるソーラーパネル設置業者の決まり文句として「今は補助金がたくさんでるのでお得ですよ」というものがあります。筆者もこのセリフを何度も耳にしました。実際には、その家庭の電気使用実績や、工事代金によって本当にお得かどうかが決まります。工事代金を回収する前に設備が壊れたらお得どころではなく不利益を被るからです。そこで今回の記事では、筆者の作成した太陽光発電シミュレーションソフトとその使い方を紹介します。
本シミュレーションソフトで出来ること
この太陽光発電シミュレーションソフトでは、各家庭の状況(電気の使用量や契約内容など)毎に、どのような工事内容(代金、ソーラーパネルの発電能力、蓄電池の容量)にした場合に、何年で投資を回収できるのか? 毎年、あるいは通年でどのくらい電気料金を削減したり売電できるのか? を計算することができます。
・本ソフトの使用により生じたいかなる不利益についても、当方は責任を負いかねます。
本シミュレーションソフトの動作条件
この太陽光発電シミュレーションソフトを使うためには、以下が必要になります。
- microsoft社のexcelあるいはfree office等のexcelファイルを編集可能なソフトウェア
- 上記を編集できるPCあるいはスマートフォン
本シミュレーションソフトの使い方
ダウンロード
まず、下記のexcelファイルをダウンロードします。
前提条件設定1
上記のexcelファイルをexcelで開き、前提条件1の表の黄色セルの箇所に数値を入力します。
電気料金・基本料金のセルには、現在契約している電気プランの基本料金を入力します。電気料金・単価のセルには、現在契約している電気プランのkWh毎の電気料金を入力します。仮に何kWh使っても単価が変わらないプランの場合には、D列にはすべて同じ値を入力し、F列の数字は初期値のままにしておきます。
蓄電池の容量のセルには、契約予定の蓄電池の容量を入力します。カタログ値ではなく、仕様に記載されている実行値を入力すると、より正確な計算が可能になります。蓄電池を導入しない場合には0を入力します。
工事代金の実質負担金額のセルには、工事代金から各補助金を引いた後の金額を入力します。(ローンを組む場合の計算はできません)

前提条件設定2
次に、前提条件2の表に移ります。基本的に初期値のままで構いませんので、次の「前提条件設定3」の項目に移動してください。あえて変更する場合には以下の指示に従い、オレンジ色セルの数値を変えてください。
昼と夜の電気使用割合のセルには、通常4と6を入力します。感覚的に夜に使う電気が多い場合には、3と7を入力します。あるいは実績データがある場合には、その数値を入れるとより正確です。合計10になるようにします。
蓄電池使用時には、系統への逆流を防ぐために通常0.1~0.2kWの電気を購入しています。よって、蓄電池使用時の電気買取量のセルには平均値である0.15kWを入力しています。ここで入力した数値は、夜間の蓄電池使用時の買電計算に使用されます。
FIT売電金額のセルには、電気料金の売電金額を入力します。通常10年目までは16円/kWh、11年目以降は13円/kWhとなることが多いようです。
通常、電気使用量に掛ける係数のセルには1倍を入力しておきます。例えば電気使用量が2倍になった場合のシミュレーションを知りたい場合に、このセルに2倍を入力することで簡易的にシミュレーションすることができます。

前提条件設定3
さらに、前提条件3の表に移ります。
共通・時刻・日の出&日の入のセルには、各月の中日の日の出と日の入りの時刻を入力します。これは、前述した夜間の蓄電池使用時の買電計算に使用されます。初期値では東京の数値が入っています。他の地域において初期値を使用してもそれほど計算結果への影響はありません。よってこの数値は初期値のままでも構いません。
ソーラーパネル蓄電池導入前・電気使用量(月間)・allのセルには、月ごとの電気使用量の実績値を入力します。通常、契約している電気会社のホームページから確認できるはずです。実績が無い場合には、各家庭の状況毎に一般的な数値を入力します。
ソーラーパネル蓄電池導入後・ソーラーパネル予想発電量のセルには、ソーラーパネルの各月の予想発電量を入力します。ソーラーパネル業者から受け取ったデータか、あるいはPanasonic社のシミュレータを使い計算した値を用います。

シミュレーション実例
シミュレーションの実例を下記に示します。
パターン1・夫婦二人
パターン1では、夫婦二人で生活している我が家の状況をシミュレーションしてみます。電気料金には、我が家が契約しているeneos電気の値を記載します。蓄電池の実行容量は11.4kWh、工事代金は84万円でした。

電気使用量(月間)は、月によって181~346 kWhの間です。業者さんの示したソーラーパネル予想発電量は、月によって319~610 kWhとなりました。

その結果、下記のように計算されました。8年で工事代金を回収し、20年後には125万円の特をしているという計算結果です。



パターン2・高額の工事
パターン2は、パターン1と同じ工事を実質負担金額84万円ではなく、200万円で実施した場合です。
パターン1では8年で工事代金を回収できていたのが、今回は20年になってしまいました。20年も経ってしまうと蓄電池が寿命を迎えてくるため、実質的に投資を回収するのは難しいかもしれません。



同一の工事内容だったとしても、業者さんによって見積もりが100万円以上異なるということは、十分ありうることです。詳しくは下記記事をご覧ください。
パターン3・パネル枚数アップ
パターン3は、パターン1よりも屋根の大きな家に住み、パネル容量を1.5倍にできた場合です。
48行目の数字を1.5倍にしました。尚、パネル枚数が増えるほど補助金も増えるので、実質負担金額を仮で100万円としています。20年後にトータルで得をする金額が、125万円から、174万円に増えました。49万円の増額です。これは、年間の売電金額が2.7万円から7.0万円に増えたことが要因です。



パターン4・6人家族
パターン4は、パターン1の住宅の人数が6人(夫婦・両親・子供2人)に増えたことによって、使用電気料金が3倍に増えた場合です。係数3倍を入力します。

パターン1では8年で工事代金を回収できていたのが、今回は6年に短縮されました。これは、16 円/kWhの売電収入が減った変わりに、30 円/kWhで電気を購入する量も減ったことが要因です(2024年現在、電気を売るよりも自家消費した方が経済的メリットが高いということ)。また、年間の売電収入が0.1万円(1000円)しかないということは、発電した電気が余っておらず蓄電できないということなので、経済的な観点からは蓄電池のメリットはほとんどありません。(ただし、停電時の備えとしてのメリットは有)



本シミュレーションソフトで出来ないこと
この太陽光発電シミュレーションソフトで実施できないことがいくつかあります。
1点目は、曇りによって発電量が落ちる量を、月全体に分散していることです。実際には曇りの日はある程度連続しうるので、この場合には売電金額がシミュレーションよりも増えます。
2点目は、器機の修理代金やメンテナンス費用を考慮していないことです。特に設置10年後にはパワーコンディショナーの交換費用として20万円が掛かることが多いです。
3点目は、通常、屋根に掛かる影の影響を考慮せずに、ソーラーパネルの発電量が計算されることが多い点です。影が掛かる量・時間帯の多い屋根の場合には、その分発電量が減り、工事代金を回収できる年数が伸びるなど経済的メリットが減ります。
4点目は、器機の経時劣化について考慮していないことです。実際にはソーラーパネルの発電量や蓄電池の蓄電容量は徐々に減っていきます。
5点目は、ソーラーパネル・蓄電池の導入前後において、異なる電気料金プランを契約したシミュレーションを実施できないことです。導入後では、Looopでんきのように基本料金が0円となる電力会社と契約した方がお得になることが多いです。
4、5点目については、本ソフトのver.2にて対応できるようにしようと考えています。
まとめ
今回の太陽光発電シミュレーションソフトが、皆様のソーラーパネルや蓄電池の導入の一助となれば幸いです。今回の記事は以上になります。